「明け行く空」の評価と価値

2013年12月09日 蒲田脚本部

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評論家岡本貢は「キネマ旬報」(昭和4年7月1日号)で「水島あやめの脚本に基づく高尾光子主演映画といえば、その商品価値も頷けるであろう」と評価している。水島は「明け行く空」までに、すでに9作で高尾光子とコンビを組んでいた。水島の「お涙頂戴」路線と愛らしい名子役との相性の良さは、当時の女性ファンに人気が高かった。

現日本映画大学学長の佐藤忠男氏は、「斎藤寅次郎にしては珍しい心温まる作品」で「松竹蒲田の主流の作風」とインターネット記事*に寄せている。昭和初期において、松竹蒲田が「女性映画」に力を注いでいたことは当時蒲田の所長だった城戸四郎が自伝「日本映画伝」(文芸春秋社)に表明しているとおりである。

また、映画評論家田中真澄氏は自著のなかで、斎藤の作品はトーキー時代のものは駄作だが、サイレント時代のものは本当に面白いと言っていたという(前回紹介した活動弁士・佐々木亜希子氏のブログより)。そして本作品を弁士として数多く公演しておられる佐々木氏自身も、「子どももご年配も、世代を超えて一緒に見てほしい一作」と書き添えている。

サイレント黄金期を象徴する「蒲田行進曲」は昭和4年(1929)公開の松竹映画『親父とその子』の主題歌として有名だが、フィルムは現存していない。同年公開の「明け行く空」はフィルムが完全なかたちで残っているうえに、主題歌の楽譜も見つかっている。同時代のサイレント映画を再現するには絶好の作品といえよう。佐藤忠男氏は前出の文章で「これが完全なかたちで保存されていたことはたいへん嬉しい」と締めくくっておられる。

〔付記〕*degital-meme の佐藤忠男氏の記事「「子宝騒動と「明け行く空」」を参照ください。

2013.12.9

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