秋草の道

1955年 少女小説

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ジャンル:少女小説
刊行日:昭和30年5月20日
出版社:ポプラ社
表紙・挿絵:西原洋子
収録作品:「月見草」「友情は星のごとく」
◆「秋草の道」のあらすじ:
どこかさびしげな翳がある中学二年生の有本美鈴が主人公。父啓介は小説家で脚本家、母は元舞台女優だった。八歳まで東京で両親と暮らしていたが、幼いときに母を亡くし、五年前に父も亡くしたことで、父の実家であるY町の伯父の家に引き取られ、初江とその妹とともに育てられる。冬休み、初江は町の白銀ホテルで臨時の仲居のアルバイトを始めるが、スキー人気で忙しく、美鈴も手伝ってほしいと頼まれる。白銀ホテルに、人気俳優三木某と夫人、娘すみれの三人が宿泊する。すみれははじめてのスキーだった。美鈴はすみれにスキーを教えることになり、ふたりは仲良しになる。昼食のとき、美鈴はすみれが見せてくれた映画雑誌に、亡くなった母と似た女優の写真を見つける。藤木加津子といい、去年の女優助演賞を受賞した実力派女優だった。藤木加津子のプロフィールをみた美鈴は、藤木の本名は浦田加代子といい、「加代子」は母と同じ名前であること、夫の名前は有本啓介で父と同姓同名、そして女の子供を産んだのちに離婚したことを知る。藤木加津子は美鈴の生みの母だった。いっぽう、加津子も三木夫妻から、母親のいない美鈴という少女のことを聞き、顔色を変える……やがて、美鈴と加津子は母と娘として再開を果たし、美鈴は東京で加津子とともに暮らすことになるが…。
ここまでの展開は、ハッピーエンドで終わる少女小説の典型だが、この作品は、このあと二転する。美鈴は、東京の映画界という華やかで恵まれた環境での生活になったものの、忙しい母とのすれ違いや育った家との違いに馴染めず、そのうえ母の愛情にも疑いを抱く。そんなある日、母が自動車事故に遭い、生死の境をさまよう。自分の名を呼ぶ母のうわ言を聞いた美鈴は、母の真の愛情を知って心を改める。そして死ぬまで母と一緒に暮らそうと心に誓う。いっぽう、足が不自由になり女優に復帰できなくなった母も仕事をやめ、娘とふたりで静かに暮らしていくことを決心する。こうしてふたりは、東京でも雪国でもない緑豊かな地での静かな生活を選択する。
◆解説:
物語の冒頭に「スキーで有名なN県Y町」とあるように、水島の出身地六日町の隣町新潟県湯沢町を舞台とした物語である。この小説がポプラ社から刊行されたのは昭和三十年五月二十日のこと。「銀嶺号」ではじめて訪れたスキー客は二十五人だったというが、六年後には、ゲレンデはスキーを楽しむ人でいっぱいで、「銀嶺号」もデッキまで人があふれていたという。全国でスキーブームが始まったのは昭和三十五年あたりからで、越後湯沢とその周辺のスキー場は、その五年前からにぎわっていたことがわかる。
「秋草の道」という題名は、ふたりが寄り添って生きていくという最後の選択の道を象徴している。また、水島は、日本女子大学三年で脚本家デビューし、松竹蒲田脚本部で活躍したことが反映されており、ストーリーに華やかさを添えている。
この小説は、水島が東京大空襲で疎開して以降、十年間暮らした故郷六日町から、病に臥す母を気遣い温暖な湘南海岸に引っ越す前に書いた最後の作品であり、刊行された最後の単行本となった。

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