斎藤寅次郎が「明け行く空」に盛り込んだ喜劇の味付けとは、どんなものだったのだろうか。
この映画は、序盤は淡々と進んでゆく。少女小説が原作であり、母と一人娘の再会がテーマの雰囲気とテンポそのものである。それが中盤から時折小さなギャグが挿入されるようになる。好一が病床の母親に薬を用意する仕掛けのシーン。女牧師が生みの母恭子であると打ち明けられた玲子が母に会いたい一心で暴風雨の中を必死に走るシーン。目玉の松っちゃん(尾上松之助)の剣劇ばりの早送りの演出である。さらに、玲子を往診にした医師が出口を間違えるシーン……。
そして終盤で、母恭子が乗った列車を、玲子を乗せた純造の駅馬車が追いかけるシーンで一気に盛り上げ、畳み掛ける。疾走する列車を必死に追いかける駅馬車。近道をするために険しい山道を四苦八苦して超える純造と玲子。斎藤が追及したラスト前のもう一つのヤマ場とは、おそらく、水島が斎藤につぶやいた木曽の山道越えを想像させるこのシーンであろう。
スピード感溢れる展開とドタバタ。追いつくはずもないのに、なぜか追いついてしまうナンセンス。そして感動的な母との再会と抱擁。母もの、少女もののストーリーに、スピード感とギャグとドタバタが盛り込まれ、観客は泣き笑いする。大人も子どもも楽しめる娯楽映画に仕上がっている。
〔付記〕現存するフィルムは、マツダ映画社で鑑賞できる。
2013.11.11