「母よ恋し」のストーリー

2014年12月01日 蒲田脚本部

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水島あやめ(23歳)の原作脚本作品「母よ恋し」は、6巻の新派悲劇の「母もの」であった。大正15年5月23日、浅草電気館で封切られている。「蒲田週報」大正15年5月2日号の紹介記事によると、あらすじは次のようなものであった。

「松川家の書生西村清は、令嬢房子と乳兄妹で恋人同士。房子が父博士に、清との結婚の許しを願い出ると、却って父の逆鱗に触れ、清は松川家を追い出されてしまう。清は、一緒に連れて行ってほしい、という房子を振り切り姿を消してしまった。数日後、房子のお腹に小さな生命が宿っていることがわかる。

数年後、再婚して貞淑な妻となった房子は娘洋子をつれて、ある海岸の別荘にやってくる。別荘には、洗濯屋の幸作という老人が出入りしており、ときどきおつゆという孤児をつれてやってきた。幸作は妻に先立たれ、息子には家出をされて、淋しさを埋めるために名家の娘の私生児を貰い受けたのだった。

ある日、おつゆは不図したことから房子や洋子と仲良くなる。一緒に遊ぶうちに、洋子が房子に甘える姿をみて、父も母もいないおつゆは悲しくなるのだった。房子は自らの過去を思い起こし、おつゆに『小母ちゃんが可愛がってあげますから』と慰める。しかし、おつゆは夜になると父や母が恋しくなるのだった。

数日後、幸作に嬉しい知らせが届く。十数年も行方知れずになっていた一人息子西村清から『アスカエル』という電報が届いたのだ。幸作はおつゆを呼び、『お前が良い子だから、お月さまが御褒美をくださったよ。お前のお父さんが帰ってくるんだよ』と思わず嘘を言ってしまう。

おつゆは翌朝はやく起きると別荘に行き、いつも可愛がってくれる房子と洋子の所へ行き、『あのね私のお父さんが今日帰ってくるの』と喜んで話した。素敵な知らせに喜んだ房子は、おつゆの父の名前が『清』と聞いて驚き、さらに姓を訊ねると『西村』という。房子の顔色は見る見る変わった。洋子やおつゆに気付かれないように『よかったわね』と声をかけてあげるのだった。

失意の中で房子の前を去った清は、放浪を続けて外国に渡り、意外な成功をして帰ってきて、これから孝行をすると言う。幸作は迷った挙げ句、『おつゆの父親になってくれ』と思いきって頼む。幸作のたった一つの頼みだと言うことで清は承諾し、おつゆに『お父さんだ』と名乗るのだった。

その頃、別荘では房子が煩悶としていた。『おつゆちゃんは本当に清さんの子なのだろうか。清さんは、私の生んだ子どものことは知らないのだ。あの子は今どうしているのだろう』と。ちょうどその時、幸作とおつゆが暇乞いにやってきて、『外国で成功して帰ってきた倅と神戸に引っ越すことになった』と告げる。『私が一生懸命でお願いしたらお母さんにも遭わせてくれるでしょう』というおつゆに、房子は『神戸ヘ行っても小母ちゃんのことを覚えていてね』というと、おつゆは『私のお母さんも小母さんのようなら・・』と言って、悲しそうに帰っていった。房子もまた涙を流して悲しんだ。

おつゆが神戸に発つ朝、房子は丘の上で、楽しそうに三人が乗っている自動車に向かい、『清さん、おつゆは貴方の本当の子どもです。どうぞ可愛がってください』と小声で叫び涙ながらに見送るのだった。」

監督した五所平之助(25歳)は、「…大変甘い母物ですけれども今でいえば新しいやり方で撮ったんです。つまり新派悲劇にならないように、大抵の母物は新派悲劇ですがそうなっちゃいけないと一つの抵抗みたいなものがあったわけですよ。それが割合に良かったのでしょうね。」と語った。城戸四郎に褒められ、監督としての自信を得たという演出は、一体どうようなものだったのだろうか。フィルムの発見を願ってやまない。

2014/12/01
no.188

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