松竹蒲田が総力を上げて製作した水島あやめ(23歳)原作の喜劇仕立ての大社会劇「お坊ちゃん」とは、どのようなストーリーだったのだろうか。ふたたび劇場用パンフレット「電気館ニュース」no96から引用する。
「梗概 宇田友三は大学を出たばかりの工学士で若い快活なちょっとした事にもすぐ有頂天になる所謂世間知らずの『お坊ちゃん』なのであります彼は父恭造が満州方面へ視察に行くのでその後を襲って東洋建築合名会社の社長の椅子に就いたのであります。
友三はどこまでもお坊ちゃん気質でただ自分が大会社の社長となったことにのみ大得意でほとんど夢中の体たらくであります彼は狩猟に出かけて他人の射た鹿も自分の射たように取りなされて猟師たちの阿諛にいい気持になったりまた就任の挨拶の演説にマゴついたりタイピストの東郁子に無邪気な恋をしたり悪社員の追従や讒言を真にうけて非常識な規則を作ったり善良な技師を無闇に馘ったりしますそして会社が請合った復興公会堂の大建築が不正工事であるため竣工祝賀会の日に崩壊し父恭造が満州で馬賊のために斃れたとの報を得てはじめて世間がどのようなものであるかを知り自己の力の浅く弱いことを感じたのでありました『俺はお坊ちゃんだった。よしこれから自分の新らしい力と血でこの公会堂は立派に再築して見せる!』と叫んだ彼はもう『お坊ちゃん』ではなく勇ましい強いそして理智に富んだ好青年として更に来るべき幾多の奮闘の活舞台を考えるのでありました。
かくて巍然たる公会堂は見事に再築されたのであります。」
そして、公開からひと月半が経った6月20日、春江堂から、この映画のノベライズ版が発行される。8ページに11点のスチール写真のあとに、39ページを使ってストーリーを掲載している。シリーズには、「大地は微笑む」「無花果」「日輪」などの話題作が含まれている。松竹蒲田が、「お坊ちゃん」をいかに力を入れて売り出したか伺える。さらに、多くの雑誌にさまざまなシーンがスチール等で残っていることから、この映画の雰囲気を今でも知ることができる。
春江堂刊「お坊ちゃん」のノベライズ版
2014/10/07
