ふたたび、水島あやめ脚本「明け行く空」(監督斎藤寅次郎)の上映会のご紹介。
野村芳亭監督の「母」も同時上映される。2作はいずれも昭和4年公開で、新派調の作品である。
「明け行く空」は主題歌がレコードで発売された作品だが、この年12月に公開された「母」は、「松竹百年史」に次のように記述されている。「川田芳子の母に新入社の高峰秀子が小藤田正一と共演、野村監督の通俗的な行き届いた演出で大ヒットとなり、浅草で帝国館で封切続映九日間の後、大晦日から松竹館で再映、二月にまたまたアンコール上映、前後四十五日間という長期興行記録をあげた」。当時の観客の琴線に触れ、大ヒットした作品だったことがわかる。
斎藤寅次郎といえば日本の「喜劇王」として映画史に名が刻まれている。しかし、松竹蒲田における監督の師弟関係をたどると、新派調の達人と呼ばれた野村芳亭の系譜に位置している。すなわち、野村の弟子に大久保忠素がおり、大久保のもとに斎藤と小津安二郎がついて監督修業を積んだ。いわば祖父と孫の関係ともいえようか。今回上映される2作品から、野村と斎藤の作風に、その系譜の形跡が見えるのか、あるいは全く見えないのか……私なりの興味である。
第684回無声映画鑑賞会(マツダ映画社主催)
日時:7月30日(木)18時30分開演
会場:日暮里サニーホール コンサートサロン
JR日暮里駅東口
「母」(昭和4年)
監督:野村芳亭
出演:川田芳子、小藤田正一、高峰秀子
弁士:斉藤裕子
「明け行く空」(昭和4年)
監督:斎藤寅次郎
脚本:水島あやめ
出演:川田芳子、高尾光子、河村黎吉
弁士:沢登 翠
URL;http://www.matsudafilm.com/monthly/kansyokai2015/kansyokai-684.html
no.313
2015/06/20